(9)ムスリム

 人間だけでなく、この世のすべてが「ムスリム」である、と言いましたが、「ムスリム」とは、アッラーに服したもの、という意味です。いわゆる「イスラム教徒」と呼ばれる人々をアラビア語では「ムスリム」と言うのですが、「ムスリム」の本来の意味は「服したもの」ですから、7世紀に始まった「イスラーム」という宗教の信奉者だけを指すものではありません。例えば、イブラーヒーム(アブラハム)は、ユダヤ教徒にとってもキリスト教徒にとっても神の預言者ですが、彼についてアッラーはクルアーンの中で、『彼はムスリムであった』(第3章67節)と仰せられています。また、人間だけでなく自然界に存在するものはすべて、軌道を進む天体も、動く雲も、咲く花も、みなアッラーの命に服したムスリムです。

 イスラム教徒になるには、教義に関する知識は特に必要なく、入信の儀式もとりたててありません。アッラーのほかに神はなく、ムハンマドがアッラーの使徒であるという一点を認め、そのことを2人の証人の前で証言すればそれだけで十分です。イスラームの入信がなぜそれほど簡単かというと、人はみなムスリムに生まれついているからです。ただ、神に関する正しい知識を持たない両親の許に生まれ、間違った教育を受けたために、無神論者になったり、別の宗教を信仰するようになって、自分がムスリムであることを忘れているのです。ですから、イスラム教徒になる、というのは、一つの宗教から別の宗教に宗旨替えするということではなく、ただ、自分がムスリムであったことを思い出し、自分本来の居場所に戻ることです。