(19)奇跡の書クルアーン 1

 預言者ムハンマド(彼に祝福と平安あれ)に授けられた、時を越え、場所を越えた奇跡とは、彼に啓示されたクルアーンのことです。

 「クルアーン」とは、「カラア(読む)」という動詞からの派生語で、「読まれるべきもの」というような意味です。
ここで言う「読む」とは、黙読のことではなく、音読です。クルアーンをクルアーンならしめているものは、その内容だけでなく、その音です。クルアーンが翻訳不可能だといわれるのも、かりに内容を別の言語に置き換えることができたとしても、音まで移し変えることはできないからです。

 クルアーンは、アッラーから命を受けた大天使ジブリール(ガブリエル)を通して預言者ムハンマドにアラビア語で逐語的に啓示されました。つまり、一字一句、いえ、一音一音口移しで伝えられたのです。

 啓示の最初の言葉は、「読め」でした。読め、といってもなにか書かれたものを判読せよ、ということではなく(そもそも預言者ムハンマドは文盲でした)、ジブリールが口述するものをそのままに繰り返して言うように求められたのでした。そこには、日常のアラビア語ではなされることのない音の引き伸ばしや鼻音など特殊な節回しのようなものが用いられていました。また、中には意味不明の音の羅列もありました。預言者ムハンマドは言われるがままにそれを忠実に繰り返し、記憶されました。そして、その独特な読みまわしはムスリムの間で今日まで忠実に教え伝えられてきました。そのため、ムスリムは、預言者ムハンマドがジブリールから啓示されたままのクルアーン読誦を今も再現することが可能です。つまり、それによって、今この場で神が語るという奇跡を追体験することができるのです。預言者ムハンマドの後には新たな奇跡が不要だというのはそのためです。