(12)アッラーという名

 「アッラー」とは、イスラム教徒の信じる神の名ではありません。アッラーとはすべてを創った方の名で、すべての被造物の神です。アラブにはヨーロッパがキリスト教化するよりずっと以前からのキリスト教徒がいますが、アラビア語を母国語とする彼らにとっても神はアッラーです。アラビア語聖書を見ると、「テトスへの手紙」の冒頭でパウロは自分のことを「アブドッラー(アッラーのしもべ)」と呼んでいます。また、キリスト教よりもイスラームの伝来のほうが早かったインドネシアのキリスト教徒もまた神をアッラーと呼んでいます。

 「アー」という音は、人間にとって最も発音し易い母音です。驚いて思わず発する声もまた「アー」でしょう。「アッーー」、人は驚愕したときに思わず知らずアッラーを呼んでいるのです。「ラー」も子音の中で最も発音しやすい音の1つでしょう。人間が彼を親しく呼び慣らせるようにアッラーは口に最も易しい音でご自分を名づけられたのです。

 子供は一日に何度も何度も「おかあさん、おかあさん」と母親を呼びます。恋人も繰り返し繰り返し愛する人の名を呼びます。人が愛する者の名前をさしたる理由もなく連呼するのはただただ愛情表現にほかなりません。そして、ムスリムは、日に何十遍、何百遍となくアッラーの御名を口にするのです。

 アッラーの名を呼ぶのは人間だけではありません。すべてのものが私たちには聞き取ることのできない言葉でアッラーを賛美しています。アッラーから特別の恩寵をいただいた信仰者の中には、体の血管が「アッラー、アッラー」と脈打つのを聞いたり、機械のモーターが「アッラー、アッラー」と音を立てるのを聞く人もいます。