7月5日

 日本に帰って1月が過ぎた。ようやく新居にも移り、落ち着いた。サウディアラビアに住んでいた人間がこんなことを言うのはおかしいようだが、日本は暑い。ともかく暑くて湿気が強い。サウディアラビアが暑いのは言うまでもないが、日中外に出る機会はほとんどなく、室内は冷房が効いているから外の暑さは別世界だ。外出するにしてもエヤコンの効いた車で家から家に移動し、日本のように炎天下を汗だくになって歩くようなことはない。

 一旦、日本での生活が始まってしまうと、2年間のサウディアラビア生活が夢のようだ。ずっとどこにも行かず日本に暮らしていたような気がする。久しぶりに友に会っても、ほとんど時の空隙を感じない。

 外出には大抵黒のヒジャーブ、黒のブラウスに黒のスカートの黒づくめで出掛ける。他の色の服もあるのだが、黒が一番落ち着く。先日、新居に移るにあたり、市役所に転出届けを出しに行った。転出願いを受け取った役所の女性は、新しい住所を確認しながら番地の後に書いた706という番号を指して、これは、と聞くので、「部屋番号です」と答えた。本当はマンション番号とでも言うべきだったのかもしれない。部屋番号、と聞いた女性は、私の服装から早合点したのか、「これは修道院ですか」と聞く。あまりに唐突な質問だったので、言葉が聞き取れず、「え」と聞き返すと、再び「修道院ですか」と言い、今度は私にも彼女の言っていることが理解できた。それと同時に彼女の方でも質問の見当違いに気づいたらしい。「いえ、なんでもないです。」と素早く質問を打ち消した。

 新居の方に移り、夫と近所の商店街を歩いていたら、黒人の男性が私の方に向かって十字を切っていた、とそれに気付いた夫が言った。やはり私の格好は一番修道女を連想させるものらしい。イスラーム教徒とはまず思わないだろう。しかし、その誤解はその誤解でおもしろい。イスラームが決してアラブの民族宗教ではなく、ユダヤ教、キリスト教に連なる普遍宗教なのだ、ということをアピールするものだと私は思う。