3月30日

 リヤード名物のらくだレースがあるというので仕事から帰った夫と出掛けた。ジャナダリーヤという場所の名を頼りに車を走らせて行くと、時々らくだを積んだトラックが横を通り越していった。途中で人に道を聞き、その通りに高速を出ると道路が途中でなくなり、あとは広い土漠が広がるばかりだった。先を行く車が何台かあったのでそれについて行くと、いくつものテントとらくだの囲いが現れた。どうやら目的地に着いたとは知れたが、レースのコースがどこなのかわからない。さらに奥に行くと、たくさんの車が駐車してあり、人々が鉄条網沿いに少し離れて立っている。さてはこの鉄条網の向こうがコースか、と同じように車を止め、外に出た。鉄条網に近づいてきょろきょろしていたら、その前に5メートル間隔で立つ兵士の1人に、下がれ、と叱られた。鉄条網の向こうにも土漠がはてしなく続き、どこがスタートラインでどこがゴールなのか、目印になるようなものはなにもない。夫が兵士にレースはいつ始まるのか、と聞くと、10分後、といやにはっきりした返事が帰って来たが、もちろん10分待っても始まる様子はない。

 車に戻って待っていると、夫が手を振って私を呼ぶ。レースが始まったらしい。あわてて出てみると、左の方かららくだに乗った集団が近づいて来た。しかし、レースのような緊張感はない。ばらばらと左から右に駆け抜けて行くだけである。そして中には右から戻ってくる者もいる。子供の騎手も少なくない。出場選手たちがスタート地点に向かっているのだろうか。しばらくすると、また左から一団が駆けて来た。横に脱線して行くらくだもいる。ともかくスピードもなければ緊張感もない。ばっこらばっこら走っている。観戦者は応援の声を上げるでもなく、ぼんやり見ている。きっとレース前のウォーミングアップに違いない。時々ダッダッダと勢いのいいのが駆け抜ける。あんなに駆けたら本番前に疲れてしまうのではないか。速足のらくだは結構美しい。そんなことを考えながら4集団ほどのらくだを左から右に見送っただろうか。やがて、見ていた人達がばらばらと車に戻り、帰り始めた。え、それでは、今見ていたのがレースだったのか。驚いて夫と顔を見合わせた。半信半疑でもう少し待ってみたが、もうなにもなさそうだし、次第に砂嵐が激しくなって来た。去年、同じころに行われたらくだレースの日も砂嵐が激しく、帰るのに一苦労した、という話を聞いていたので、そろそろ帰ろう、と車に戻った。

 道路は帰りの車で渋滞だった。国旗を付けた大使車が何台も通った。国賓として国家的行事の鑑賞に招かれたのだ。国王や大使たちには特別の鑑賞席が設けられていて、そこからはレースがよく見えたのだろうか。私たちが見たのは、ゴールインの後に勢い余って駆け続けたらくだたちの群れだったのだろうか。結局自分たちが見たものがなんだったのか腑に落ちないまま私たちは帰途に着いた。