11月3日

 東部州に知人を訪ねて3泊4日の旅をした。リヤードから飛行機で1時間、小さなダハラーン空港に着くや、海辺の町に来ていることがジトっとする湿気の多さで感じられた。

 ダムマームで2泊した後、そこから車で1時間半ほどのジュベイルにサウディアラビア人と結婚した日本人ムスリマ、マリカさんを訪ねた。ジュベイルは緑の多い美しい町だった。

 サウディアラビア人と結婚した日本人女性と親しく話すのはこれが初めてだった。リヤードにはエジプト人と結婚している日本人女性はいるのだが、サウディアラビア人と結婚している人はいない。あるいはいてもこちらの生活に溶け込み、日本人コミュニティーとの接触は断っているのかもしれない。マリカさんも、日本で死ぬようなことがあってもイスラームの聖地のあるサウディアラビアに埋めて欲しいと思うくらいすっかりこちらの生活に溶け込んでいて、溶け込めばそれだけ自然と一般の日本人との付き合いは疎遠になってしまっているようだった。

 サウディアラビアに住み、イスラームという同じ信仰を持ちながらサウディアラビア人とはほとんど付き合いのない私にとって、マリカさんが語る、彼女が見、また生きるサウディアラビアの生活は、私がこれまでに垣間見たもの、あるいは想像してきたものとはかなり違っていた。彼女のご主人の家は宗教的にかなり厳格な家庭で、実家に子供を連れていくとテレビのアニメは音楽があるのでボリュームを下げて絵だけを見せ、以前日本から持ってきた動物の絵の付いた手提げカバンは絵を剥がされたという話だった。

 サウディアラビア人と会ったらぜひ聞いてみたいと思っていた女性の結婚についての質問をマリカさんにいろいろしてみた。年齢の離れた相手との強制結婚、複数妻の不幸についてのうわさを聞くが、一体そういう事実はあるのか。私はかつてアラブ人の友達に尋ねたが、それは昔のことだ、あっても無知な、イスラームをよく理解していない人達のすることだ、という答えだった。しかし、サウディアラビア人の間に溶け込んで生活するマリカさんの耳には、身近な出来事としてそうした話がしばしば入ってきているようだった。

 ある友人は、ご主人が2人目の奥さんをもらい、それが嫌でしばらく実家に帰っていたが、結局は折れ、今では2人は姉妹のように仲良く同じ屋根の下で暮らしているという。家に夫婦を招待するときにももちろん2人は一緒なのだそうだ。固い結束で結ばれ助け合って生活する2人の妻は、私もエジプトで1組知っている。家事や子供の世話も分担でできるし、留守にするときの心配もないので、妻同士の相性さえあえば、これはかなり理想的な関係かもしれないと私は思う。ただしこれは成功例で、中には妻が知らないうちに夫が第2妻を別の家を住ませていた、どうしても第2妻を受け入れられず、実家に帰ってなすすべもなく泣き暮らしている、という話もあるらしい。

 また、ある知り合いはまだ若い娘をうんと年の離れた人の第2妻として結婚させ、娘が泣いて嫌がるのも聞き入れず、実家に逃げ帰っても家には入れないという強硬な態度を取っているらしい。その夫婦はイスラーム的にどんな人達なの、と私が聞くと、奥さんはアメリカ人で、ご主人は大変まじめなムスリムとして知られているとのことだった。「娘のため」を思ってやっていることだろうけれども首を傾げざるを得ない話だ。「結婚は信仰の半分である。」という預言者(彼に平安あれ)の言葉があり、自分自身の実感として、また回りを見てもそれをつくづく思い知らされているので、不幸な結婚をしている人は本当に気の毒だと思う。

 昼食をマリカさんの家でゆっくり取ったのち、一旦ホテルに戻って一眠りし、9時に待ち合わせて海岸にバーベキューに出掛けた。海岸沿いの公園は同じようにバーベキューを楽しむ家族で一杯だった。野外でのバーベキューはサウディアラビア人の週末の楽しみ方の1つのようだ。リヤードでも、週末の夜、郊外を車で走ると、道路わきに腰を下ろしコーヒーを片手に団欒する姿をあちこちで見かける。後ろのほうには広い砂漠が広がっているのだからもっと奥のほうに行けばいいのにと思うのだが、どういうわけが通る車の排気ガスを吸い込みそうな道路脇にじゅうたんを敷いて座っている。大使館が集まっている外交団地区にある公園も週末になるとサウディアラビア人家族のバーベキューパーティ会場と化すらしく、聞いた話によると、週末が明けると公園はその残骸で無残に汚されているのだそうだ。そうした野外での食事のときも、もちろん女性は黒い布で顔を隠したままだ。左手でそれを軽く摘まみ上げ、その隙間から右手を差し込んでものを食べる。

 バーベキューを焼くのは男の人の役目と決まっているらしく、マリカさんのご主人と私の夫が少し離れたところで中腰になって肉を焼いている間、私たちは涼しい風にあたりながらおしゃべりを続けた。夜風が本当に気持ちがいい。思えば、私がサウディアラビアに来て以来、外の風に当たったのはこれが初めてではないか。外出といえば車でスーパーに行くか人を訪ねるかで、1年の大半を窓を閉め切った冷房のきいた場所で過ごし、野外の空気を吸ったことなどなかったのだ。こんな快い生きた空気があったとは、と体がよみがえる思いだった。

 お昼にたくさんの御馳走をいただいたので、出掛けた時点ではまだ空腹を感じず、あまり食べれそうもないなと思っていたのだけれど、肉が焼けたころには軽い空腹を覚え、特にエビが美味しかったので夫と貪るように食べた。やはり海辺の町とあって魚類が新鮮なのだろう。こんなおいしく甘いエビは食べたことがなかった。