10月2日

 夫の出張の前夜になって私も付いて行くことに決めた。出張先はワッハーブ派の牙城、イスラーム厳格主義の中心といわれるカスィーム地方の中心ブライダである。リヤードからは車で砂漠をおよそ時速140キロで横切って3時間のところにある。ブライダの町自体は小さく、なにしろイスラーム厳格主義の中心なので観光になるようなところはなにもなく、女性の姿もほとんど見られないというところだから行っておもしろくないが、道中の砂漠がきれいだから、と夫に誘われた。実際、町自体にはなにもなく、3日間をほとんどホテルで本を読んで過ごしたが、帰りの砂漠はとてもよかった。

 行きはさほどの感激もなかった砂漠が、なぜか帰りにはすばらしく見えた。ブライダを日没のちょうど1時間ほど前に発ち、夕暮れの砂漠と、星空の砂漠が見られたことがよかったのかもしれない。
 黄色っぽい砂漠から赤土の砂漠がはてしなく波のように高低に連なり、場所によってはまばらに薄緑の茂みがはえている。砂漠と言うと砂地を想像していたのだが、こちらに来てみると岩地が多く、大きな壁がそそり立つようになったところもブライダの近くには見られた。

 日が沈み、マグリブの礼拝の時間となると、道路の傍らに車を止めて礼拝している人々の姿が見られた。旅路にあるときにはマグリブと次のイシャーの礼拝を一緒に行うことができるので私たちはずっと車を走らせたが、日本に帰る前に1度ぜひ砂漠の真ん中でマグリブの礼拝をしたいと強く思った。闇が迫りつつある大地にひれ伏して礼拝する姿はとても美しく感動的だった。

 イスラームは他の多くの宗教と異なり、一切の媒介物なしに、つまり偶像等を目の前に置かず、直接天の神に祈りを捧げるが、砂漠のようになにもないところにいると、天がいやでも近くに感じられ、神の偉大さ、そして人間存在の卑小さが実感されるのではないだろうか。

 残照も消え、闇夜となった空を車の窓から仰ぎ見ると、降るような星空だった。リヤードでは街の明かりのせいであまり見ることのできない星を初めて見た。街灯はないが後続の車のライトのせいで見にくいものの、目を凝らして見ると本当に撒いたように無数の星が輝いている。