6月5日

 疲労困憊の体でハッジから帰ってきた。どうやら夫の方はただの疲労ではなく、ハッジ土産のインフルエンザの発熱が始まっているらしい。ともかく帰ったその日は、礼拝のために起きては寝、食事のために起きては寝、ひたすら眠り続けた。あまりの疲労に私は金縛りに会い、思わず夢うつつに「アウーズビッラーヒミナッシャイターニッラジーム(呪われた悪魔からアッラーに守護を求めます)」と叫び、その声に驚いて夫は跳び起きた。

 ありがたいことにハッジ休暇が1週間ほどあるのでそれから3日間ほどは電話線も切って、ほとんど寝て過ごした。アラブではハッジから帰ると親戚中が祝いに集まってくるという話だが、とても人と話す気力はない。夫の熱が引くころになって、今度は私の方が熱を出した。喉が腫れ、とても苦しい。ハッジに行く者はほとんど全員インフルエンザにかかるようだ。ともかくハッジ中に発病しなかったことを感謝しなければならない。健康体でもやっとの思いで果たしたカアバの周囲の7周を熱の体でやることを考えると気が遠くなる。

 ハッジによって過去の罪をすべて洗い流し、生まれたばかりの無垢な状態に戻ったのだから、行く前とは顔付きが変わっているに違いない、と鏡を覗き込んでみる。顔が清々と輝いているだろうか。ハッジは一生に1度の義務だからもう1回でたくさん、と夫は懲りた様子で今は言うが、いつかきっとまた抗い難い力に吸い寄せられるようにマッカへの道を辿ることになるのだろう。