11月1日

 夫の知り合いのサウディアラビア人の家に夕食に招待された。夫婦揃っての招待だが、もちろん夫は夫で私は私で別々の部屋に招き入れられる。15畳ほどの広い部屋には3方の壁に沿って西洋式のソファーが置かれてある。夫の知人の家の女性たちとは初対面だからそれでなくても話辛いのに、私が一方の壁に、相手がもう一方の壁を背にして座ると、間の距離が開き過ぎて落ち着かない。居心地悪さに耐えかねて私が地面に腰を下ろすと、みんなもほっとした様子で私に倣った。車座になるとお互いの距離がぐっと狭まり、体も気持ちもくつろぎ、話が弾み出した。

 サウディアラビア人のもてなしで欠かせないのがコーヒーである。コーヒーといってもいわゆる黒い色をしたコーヒーではなく、日本の緑茶に香辛料を加えたようなものと言った方が近い。ぐい飲みのような小さなカップに何杯も継ぎ足してもらって飲む。黒いコーヒーと違って胃に優しそうだし、なつめやしとの組み合わせも抜群で、たいへん気に入った。

 英語の通じないおかあさんとの話の継ぎ穂に困って、ゲストの1人のフィリピン人がたどたとしいアラビア語で、「あなたを見ていると国の母を思い出す。雰囲気がとても似ているのだ。母は70になるのだが、あなたは」と聞くと、「よく分からない」、との答え。多分このくらいだろうと、と手で示すのを見ると50と言っている。それを見て私は驚いた。外国人の年齢というのはなかなか掴めにくいのだが、それにしても60は優に越えているように見える。聞いたフィリピン人も一瞬絶句した様子だったから私だけの見当違いでもないようだった。正確な年齢を知らないことはどうでもいいことだが、60を50と信じられるとしたら幸せなことだ。それとも本当に実際より老けてみえただけなのだろうか。ついでにお父さんは、と聞くと、今度も手で100ぐらい、と言う。20ぐらいの娘がいるのだからそんなはずはないだろうと思い、帰りの車で夫に聞いてみると、夫もそんなはずはない、80もいっていないだろう、と言う。自分の父親の年でも答えたのだろうか。

 大学で宗教学を専攻しているという娘は、色白の美人で家の中ではヨーロッパスタイルをしている。サウディ人女性とはあまり付き合いがないからわからないのだが、会ったことのある少数の女性はみな色が白くて美しい。こんな女性にお帰りなさいと出迎えられたら幸せだろうな、と女ながらに思う。

 その娘さんが最近見合いをし婚約したというので、いろいろ聞いてみた。私の知っているエジプトの見合いではお互いがいろいろ質問しあって、その上で答えを出す。しかし、サウディアラビアのお見合いは本当に「お見合い」で数分同席するだけで、言葉もほとんど交わさないらしい。その後で双方の身上を調査し、悪い評判を聞けば白紙に、そうでなければ数か月後に婚約するという。その間の連絡はいっさいなし。婚約しても結婚契約を交わすまでは顔を見せないらしい(お見合いの席ではちらっと見せるらしいが)。婚約しても結婚契約までいかないケースも割合あるらしい。どんなに申し分ない人間でも相性というものがあるのだから、と心配になるが、お互いよそ見をする可能性がないからそれで結構うまくいくのかもしれない。